<STORY>
あんたはいつも遠くから見ているだけだ・・・
富士山を仰ぎ見ながら少年はそう呟き、北へ向かって自転車をこぎ出す。若者達が群れる東京・渋谷の繁華街、朝の通勤ラッシュの人の群れに逆らうように独り歩く少年。彼や彼と同世代が起こした事件についての新聞記事、ラーメンを食べながら母親を殺した少年について語り合う高校生達。母親や勉強部屋、自分が犯したことから身を引き剥がすようにして、ひたすら自転車をこぐ少年。三国峠から六日町、柏崎から象潟、男鹿半島へと北上していく、その目に映るのは北の峻烈な風景だけである。招き入れられた雪洞で大人達が交わす会話、海辺の青海川駅の待合室で出会った老人が語るその青春と戦争体験、漁業の行末を憂える漁師達……ただじっと彼等の話に耳をそば立てるばかりで何もしない少年。 そんな少年が、通りかかった里山の雪道に倒れ、救いを求める老婆を背負って家まで連れていく。その家で味噌汁をかけただけの飯をほお張りながら、朝鮮から連行されてきた老婆が唄う祖国の歌を聞き、チマチョゴリに身を包む自分と同じ年頃の少女を重ね見る。なおも続く少年の旅。竜飛岬へ、さらに北へ、もっと遠くへと旅は続いていく……。
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